後日談にあたり
まずは、弊社から公開した “Esports Tiers in Japan 2019” に興味を持って頂き、感謝申し上げます。広く、多くの方から反響がありました。驚くべきことに、数値や範囲に関する本質的なご意見・ご質問を日本の方から複数頂きました。そのため、必要と考えた補足をここにまとめて日本に向けて記します。
以下、このように定義します。
総評
上記URLの本発表からの繰り返しになりますが、
過去12ヶ月間
日本国内で開催された大会
視聴時間合計 [分]
この条件で集めたデータを基に作ったチャートとなっています。
今回考慮したリストには国内で実態のある大会を開催していたゲームタイトル60以上が観測され、20タイトル未満に落ち着くように Tier List としてまとめました。そのため、Tier 3 に含めたタイトルは国内で視聴時間が大きく発生しているものであり、決して相対的に低いというイメージを持たれないでください。また、測定誤差が有り得ますが、各 Tier の gap を大きく設けましたため、Tier に影響するものは無いと考えています。
こちらの総評で、配信技研としての感情的なメッセージを申し上げます。
日本でゲームを用いた大会をより多く開いて欲しいです。もしくは、なるべく多くの方に大会を開かせて欲しいと考えています。
そして Tier List をご覧になったことで、Tier を基に競技シーンの優劣を考えるのではなく、日本にこういうゲームタイトルがあるのかということを認知して欲しいです。更に、知ったことをきっかけに、スポンサーの方々には実際に大会会場へ赴き、競技の舞台をご自身の目でご覧になって、神経で感じたことを第一に判断をして欲しいと思っています。
以下、個別での内容となります。
個別
■ 海外でのイベント関して
前提として、今回の Tier List は日本国内で開かれた大会を使用しています。ただ、多くのご指摘がありましたが、日本の方が視聴している海外の大会があることは事実です。仮定をすることは難しいですが、仮に Tier List の根本となる基準を変更して海外大会の数値を折り込んだ場合、中には Tier List が変動するに相応なコンテンツもございます。
改めて我々が Tier List を作成するにあたり重要視した点についてご説明いたします。
元記事で述べたように、「国内で開催された大会のグローバルからの視聴」は GDP になぞらえており、逆に「グローバルで開催された大会の日本からの視聴」は GNI に当てはまります。GDP と GNI の議論は、輸出と輸入のいずれを盛り上がりの指標として含有するべきかという議論に近いものです。現代ではGDP方式を選択する考え方は我々が国内大会を選んだ理由の一つとも合致しますが、それだけではございません。国内で開催された大会であるか否かは、日本の経済に貢献しているか、最上位プレイヤー以外のマクロ的なプレイヤーシーンに資するものがあるか、といった総合的な視点から真に重要な要素であると考えています。
海外大会の数値を加算することは根本となる基準を揺るがすこととなるため、この基準を変えることはありません。
その上で、日本からの視聴が大きかった海外コンテンツを具体的に列挙いたします。海外の大会に関しましては、元記事で公開予定がなかったため同等の精度で測定できていない可能性があります。今回はこちらが選択した10コンテンツを列挙します。(原則ゲームタイトルで列挙しますが、大会の性質上ジャンルでまとめたものもございます。)
League of Legends(Worlds, LCK, LCS など)
PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PKL, NPL など)
Tom Clancy’s Rainbow Six Siege (Six Major)
クラッシュ・ロワイヤル(クラロワリーグ アジア)
格闘ゲーム(Evolution, Capcom Pro Tour, Tekken World Tour など)
Fortnite(World Cup)
Call of Duty シリーズ(World League)
Counter-Strike: Global Offensive(ESL One など)
大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL(Genesis, Frostbite など)
Hearthstone(マスターズツアー, グランドマスターズ など)
■ クラッシュ・ロワイヤル
発表前に内部で最も議論があったタイトルです。2019年に開催中の「クラロワリーグ アジア」は今回算入していません。地理的に韓国で開催されているためです。
海外大会が、我々国内プレイヤーを楽しませていないという訳ではありません。しかし統計の調査方法に一貫性を維持するため断腸の思いで「クラロワリーグ アジア」を含めませんでした。今も国内でクオリティの高い大会が開かれていることをご覧頂ければと存じます。
■ バトルロワイヤル系タイトル
我々は観測者に過ぎないのですが、現在ゲームパブリッシャーから日本国内大会の方向性は示されていないものがございます。“Fortnite” や “Apex Legends” 等が当てはまります。
元記事に「ゲーム自体の完成度やユーザー数の優劣を決めるものではありません。各ゲームタイトルの部分集合である『国内の競技シーン』の盛り上がりを見る一つの指標と考えて下さい。」と記しましたが、バトルロワイヤル系タイトルは特にこの視点を忘れてはいけないと考えています。勿論個人のストリーマーによる配信はかなり多く見られ、日本でもトップクラスの興隆タイトルの一つとして楽しまれています。
■ Call of Duty
Call of Duty シリーズは毎年新タイトルが現れます。今回の観測期間ですと “Call of Duty: WWII,” “Call of Duty: Black Ops IIII” がありましたが、競技シーンが同一であると考え、併せて Call of Duty として算出しました。
昨年2018年は国内プロリーグが定常的に開かれていましたが、今年は同じものは開かれていません。
■ シーンを育てることについて
ゲームはリリース当初の勢いというものがどうしても存在し、初期ほどプレイヤー・視聴者も多い傾向があります。しかし、リリースしてから年月が経って一度トレンドに落ち着きを見せて後に視聴が増えて来たゲームタイトルがございます。こういったタイトルはパブリッシャーの力もある一方で、実際にプレイしているユーザーの取り組みが寄与した部分も多いです。そのため「シーンを育てたタイトル」と呼ぶ次第です。
“Tom Clancy’s Rainbow Six Siege”, “Counter-Strike: Global Offensive”, 「大乱闘スマッシュブラザーズDX」 が当てはまります。
Tier List には載っていないものの、同様に当てはまるタイトルがございまして、それについては次の段落で述べます。
■ Notable Mention
上で述べたように、Tier List に掲載されているタイトルは非常に視聴が多かったゲームタイトルの一部であり、それ以外のタイトルが日本にシーンが無いわけでは勿論ございません。
寧ろ、定性的な指標ではありますが、Tier List に載っていないゲームタイトルの方がシーンを育てることに関して成功している、と言うことが可能なケースもございます。
例えば、ゲームセンター/アーケードで常にコンテンツを発信しているタイトルや(「GUILTY GEAR」シリーズ, 「機動戦士ガンダム エクストリームバーサス」シリーズ等)、毎週特定の会場で対戦会を開いているタイトル(「ソウルキャリバーⅥ」, 「Dragon Ball FighterZ」等)は非常に結びつきの強いコミュニティを持っています。
2019年は「いきいき茨城ゆめ国体」にて開催された「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」に選抜されたタイトル(「ウィニングイレブン2020」「グランツーリスモスポーツ」「ぷよぷよeスポーツ」)も、全国津々浦々で予選会が開かれ、それを発端に各地で独自のイベントも開催されるようになりました。
ゲームのシーン形成は最新作に限りません。「ストリートファイターⅢ 3rd STRIKE」は、このバージョンがアーケードで稼働開始から満20年が経っていますが、日本では定期的に開催される大会があり、海外からも高い注目度を得ています。
これらを踏まえて、5 Million MW / 12 months(12ヶ月で視聴時間500万分)というボーダーを設けました。この数値は、大会の視聴という面では日本市場の関門でした。
個人配信の面では事情が異なります。今回の Tier List は個人配信を含めていません。同じゲームタイトルの個人配信を含めますと 5 Million MW / 12 months というボーダーはより簡易なものとなります。しかしながら、個人配信と競技シーンは別であると考えて含めませんでした。具体的に数値で例示しますと、同時視聴者数 400 の大会を毎週4時間開催すれば、1年で Tier 3 の線を突破することが可能です。
実際、Tier List の中では「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」「ストリートファイターV アーケードエディション」「鉄拳7」 “Counter-Strike: Global Offensive” 「大乱闘スマッシュブラザーズ DX」がこの “毎週” という継続力が大いに貢献していました。
■ 会場での観客について
今回の Tier List は、大会の視聴時間を基に作成しました。まさに後日談となりますが、はじめは大会の「会場への動員人数」(競技の参加人数や観客数を足したもの)を評価に算入しようと考えていました。ただ集計するにつれ、Tier を覆すほどの差がないことが分かりました。相関係数などは出しませんが、「大会の視聴時間が大きいゲームタイトルほど、その大会へ足を運ぶプレイヤー・ファンが多い」傾向があると言えました。
■ RTA について
RTA(speedrun)は esports に含まれるのかについては様々な議論があるところです。全ての議論は置いておき、RTA について今回の視聴時間を集計してみました。
国内でのイベントのライブ配信を集計範囲とします。(個人でのタイムアタックは含めません。)日本でも代表的なものでは “RTAinJapan” という影響力の大きな恒例イベントがございます。
RTA は性質上、一つのイベントで複数のゲームタイトルを扱います。この「イベントでは複数ゲームタイトルを扱う」点が、今回の Tier List と相性が悪かったところです。それではここで仮に、全てのゲームタイトルの RTA をまとめて一つのゲームタイトルと考えて集計しましょう。すると “RTA” は Tier 2 に入ります。その中でも上位と言って差し支えない視聴を生産していました。
更に、上記「シーンを育てたタイトル」にも当てはまります。ちなみに上記「海外でのイベントに関して」に該当するイベントがございます。該当する主なものは年に複数開催される “Games Done Quick” シリーズです。